山の子アントニオ


コスタリカ、エスカスの「魔法使い旅行社」でツアーを組むアントニオ


コスタリカは1950年代から70年代にかけて、平和構築や教育、保健、自然保護などの面で大きな功績をあげました。でも今コスタリカは大変な危機に直面してると思います。

アントニオに会ったのは、私の息子の学校の先生の誘いでエスカスの山のハイキングツアーに参加したときでした。半日間うっそうと茂った木々とこぼれるような緑のなかを歩き、澄んだ川にそって山をのぼりました。 家からほんの車で20分行ったところで、このように美しく豊かな自然のなかにどっぷりつかれることに、あらためて感嘆しました。そしてガイドをしてくれた三人のエスカスっ子の若者たちの、地域の自然や伝統文化を大事に思う気持ちに心を打たれたのです。そのひとりがアントニオでした。


子供のころから山歩き

Antonio Sancho Chaverri(アントニオ・サンチョ・チャヴェーリ)と言います。34歳です。El Brujo Tours (エル・ブルーホ・ツアーズ、魔法使い旅行社)という小さなツアー会社をエスカスでやっています。最初はエスカスの自然をもっと広く知ってもらいたくて、この近辺の山や農村部を専門にツアーを組んでいました。最近はコスタリカのほかの地域にもくり出しています。今のところツアーの仕事は週末だけで、週日は小学校の体育の教師をしています。

ぼくはエスカス生まれのエスカス育ちです。今でこそエスカスは高級住宅街や、ショッピングモールで知られていますが、ぼくが子供のころはまだ田舎でした。最初に住んだのはエスカスの飲み水のみなもとになるアグレス川の川べりの電気もない家だったんです。父親は農業をしていて、おもに野菜をつくっていました。

「魔法使い旅行社」は、僕と同じようにエスカス育ちの友だち三人といっしょにやっています。エスカスやコスタリカ各地に今でも残る、豊かな自然や伝統的な農業や先住民文化をもっと広く知ってもらいたくてはじめました。それに僕はもともと健康の問題、肉体的な健康だけでなく精神的な健康にも関心があります。自然や、自然に根付いた生きかたに触れることによって、ツアーに参加する人たちの健康の向上にも貢献したいと思っているんです。将来の目標はホテルをひらくことと、ツアー活動を外国人観光客にも広げることです。

この仕事に取りくんだ理由は、ぼくの子供時代にさかのぼります。まだぼくが赤ん坊のころ、エスカスのとなり町のアラフエリータから、エスカスを囲む山々の頂上まで道路をひくための工事がはじまったんです。そのために、アグレス川が汚れてしまいました。父が反対運動を起こし、「エスカスの山を守る会」(CODECE)を起ち上げました。父は社会党の活動家でした。1970年にカナダのアルミニウム会社のアルコアに、コスタリカ政府がボーキサイトの採掘権を許可したことで、大きな反対運動が起こって、父も参加したんです。

もともとエスカスに越してきたのは政治からはなれて静かな生活を送るつもりだったからなんですけどね。おかげで道路工事は中止になったんですが、CODECEは森林保護や植林活動もするようになりました。それでぼくも子供のころ父と一緒によく山歩きをしたんです。こういう経験から、エスカスの自然や農村文化をもっと広く知らせたい、という気持ちが生まれてきたのだと思います。

心配なのは、エスカスでもほかの地域でも、お金もうけのために住宅建設や都市化を進めようとする人たちに自然がおびやかされていることです。つい最近にもエスカス市内の自然保護区域に家が建てられました。規制がちゃんと守られていないんです。


コスタリカの危機

コスタリカは1950年代から70年代にかけて、ビジョンを持ったリーダーたちにめぐまれました。おかげで、平和構築や教育、保健、自然保護などの面で大きな功績をあげたんです。とくに70年代に国立公園を設立した人たちは国民的ヒーローだと思います。でも今は資本主義的な考え方が優勢です。みんなひたすら自然から富をひき出して売りさばくことばかり考えています。地球を大事にすることを忘れてしまったようです。

今、コスタリカは大変な危機に直面していると思います。財政改革をめぐって政府と反対派、とくに労働組合が対立しています。ぼくも教員組合の一員なのでストライキに参加しなくてはなりません。財政改革が必要なのはわかります。でもどうして中流階級や貧しい人たちが税金をより多くとられ、大きな企業がはらわなくてすむんでしょう。そもそも財政改革が必要になったのは、政治家たちの汚職があまりにもはびこったことの代償ではないでしょうか。

El Brujo Tours と、コスタリカ、エスカスの山をハイキング
El Brujo Tours と、エスカスの山をハイキング

これからは、今までの資本主義とはちがった新しいいシステムを築く必要があると思います。それで、ぼくはツアーと教師の仕事の上にパーマカルチャー(Permacultura)を自分の生活のなかですすめているんです。パーマカルチャーは三つの原則にもとづいています。自然を大事にすること、人間を大事にすること、そして利益をわかち合うことです。自分の食糧は自分で作り、エネルギーもなるべく自分で生み出します。いまぼくが住み、「魔法使い旅行社」の事務所に使っている家は、自分で建てたものです。まわりには果物の木を植えて、肥やしも自分で作っています。ツアーの中でくばるサンドイッチは、エスカスでとれるトマトや、エスカスの店で買ったチーズを使います。お金なんかなくなって、物々交換で暮らせるのがいちばんだと思うんです。

自分はしあわせ者だと思います。自分の会社で好きなことをして、そのうえ子供のころから好きだった自然を人に見せることで暮らしているんですから。でも実はぼくがいちばん好きなのはサーフィンと旅行なんです。今までいろんな国に行きました。メキシコ、コロンビア、ブラジル、キューバ、スペインがいちばん好きです。次はアジアの南のほう、とくにタイに行きたいですね。

日本に行ったことはありませんが、他人に対してとても敬意を持って接する国民だと思います。価値観をとても大切にし、正直で、何に対してもベストを尽くす人びとだという印象があります。でも自殺が多いと聞いているので、きっとストレスの多い社会なんでしょう。もしコスタリカに来られる機会があるなら、ぜひぼくたちのツアーに参加していただければ嬉しいです。しあせな生活を送るためにはパーマカルチャーのように具体的で実用的な策があるということを、きっとからだで感じますよ。

(インタビュー2018年10月17日)

山の子アントニオ” への2件のフィードバック

  1. コスタリカ人のマルセラと、高知の教会の国際交流で知り合い友達になりました。
    スペイン語圏の彼女が、near here?
    って言ったのが、「あなたの家はここから近いの?」
    って聞いているだとわかったことが、その後の日本語教師の道を私に開いてくれました。

    マルセラ、
    高知医大への留学生
    コンチン幸子さん夫婦に会いたいなあ!
    マルセラは、牧師さんと結婚したのかしら?

    1. コメントありがとうございます。マルセラさんとはその後も交流おありですか?もうお医者様になったのでしょうか。日本語教室の生徒さんはどんな方々ですか?私はこちらで、日本で勉強したという、中国系のコスタリカ人のお医者様にかかったことがあります。家族ぐるみでやっているクリニックで、評判いいです。今後ともよろしくお願いします。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください