コスタリカとラテンアメリカはなぜこんなにハッピー?

世界幸福度調査2018。色が濃いほどハッピー。コスタリカは7.072。

コスタリカは世界で最も幸せな国のひとつだと、よくいわれます。この国の観光省の宣伝でも観光客の思いつきでもなく、具体的な根拠があります。「世界幸福度調査」(World Happiness Report)に示されています。

この報告書は、国連持続可能な開発解決策ネットワーク(United Nations Sustainable Development Solutions Network)が毎年発表します。毎年別のテーマに焦点をあて、幸福度指数の国ごとのランキングを掲載します。2012年から発表され、コスタリカは毎年ベスト20に入っています。2018年は13位、2019年は12位でした。それに比べて日本は、2018年は54位、2019年は58位です。

ここで今まで発表されたレポートが全部みられます。報告書から読み取れることを探ってみましょう.

これは2019年のランキング(p.25)の30位までです。

幸福度をはかるために、この報告書はギャラップ社が行う世界的な世論調査の結果を使います。「キャントリルのハシゴ」という方法で、世界中の国々の人びとに幸福度をたずねるのです。

回答者は、「ありうる最悪の人生」をはしごの0段目、「ありうる最高の人生」をはしごの10段目と想定して、いま自分がそのはしごの何段目にいるのか答えます。こうしてはかった幸福度は、2019年のレポートでは、コスタリカは7.167, 日本は5.886です。

2019年のトップ10は北欧諸国とスイス、オランダ、オーストリア、カナダ、ニュージーランドが占めています。1位のフィンランドのスコアは7.769です。コスタリカは発展途上国のなかで唯一トップ20にはいっています。反面、日本はG7諸国のなかでは最下位で、イタリア(36位)をのぞいて、唯一20位以下です。

2018年レポートは、第6章で、コスタリカだけでなく、ラテンアメリカ諸国が、概して経済力に比べてハピネス度が高いということについて分析しています。

このグラフ(p.119)を見ると、ラテンアメリカの平均幸福度指数が世界のすべての国の平均よりも高く、いくつかの国は、西ヨーロッパの平均値と同じぐらいです。

ランキングのグラフを見ると、さまざまな色がつかってありますが、これらは、ハピネス度に影響すると思われるいくつかの「基本的な要素」(key variables)あらわしています。濃いむらさきが国内総生産(GDP)、ピンクが社会的支援 (身近に頼れる身内や友人がいるかどうか)、オレンジが平均寿命、黄色が社会的自由(自分の生活について決断する自由があるかどうか)、水色が気前のよさ(generosity、最近寄付をしたかどうか)、そして紺色が腐敗の認識度(政府と民間企業のなかで汚職がはびこっているかどうか)です。薄むらさき色の部分、Dystopia+residualは、「基本的な要素」では説明できない部分をあらわしています。

(測定方法についての細かい説明はこちらのサイトにあります。) 2018年レポート第6章が注目しているのは、ラテンアメリカの国々の場合、6つの「基本的要素」の数値から予測されるレベルより幸福度が高いということです。

このグラフ(p.121)の緑と黄色の線が、その違いの度合いをあらわしています。ドミニカ共和国以外はすべての国が予測レべルより高く、コスタリカとメキシコがとくにその度合いが顕著です。

レポートは、その理由はラテンアメリカ諸国にみられる、親しく温かい人間関係、とくに家族のきずなにある、と指摘しています。ラテンアメリカの幸福度の高さには、社会的な基盤があるというのです。そして、こういう基盤ができあがったのには歴史的背景がある、と。先住民文化が、富の蓄積よりも自然との調和や生活を楽しむことを重んじてきたこと、スペイン人の大家族を大切にする習慣が先住民の共同体を重視する文化と交わったことなどをあげています。

たとえば、家族のきずなを大事にする傾向は、このグラフ(p.133)にみられます。「私たちのいちばんの目標は両親に誇りに思ってもらうことだ」という文章に同意する度合いをはかったものです。ラテンアメリカの国々がアメリカやヨーロッパ諸国より高いことがわかります。

このブログの、コスタリカ人相手のインタビューを読んでいただいても、ハッピーな人たちだと感じられるのではないでしょうか。みんなそれぞれのやり方で人生に喜びを見出し、家族とのつながりを大切にしています。たとえばチーズ屋さんのカロリーナは娘さんと過ごす時間を楽しみ、パレスチナから移民してきたアブドゥルファタも、大人になった子供たちを誇りにしています。歴史学者のヴラディミールは家族と集まって先祖の話をする時間を大事に思い、日本人のバイオリニストの八木さんも、コスタリカの人は家族を大切にするといっていました。

コスタリカの幸福度がとくに高い理由として、レポートはこの国が保健や教育などの基礎的なニーズをすべての市民に保証していること、そして軍隊がないことをあげています。

ラテンアメリカの国々の特性としてもうひとつ興味深いのは、「ポジティブな感情」の指数が高いことです。この指数は、以下の質問への答えから計算されます。

  • 前の日に笑ったかどうか
  • 何か学ぶ機会があったかどうか
  • だれかに丁寧にあつかわれたかどうか(treated with respect)
  • 楽しみ(enjoyment)を経験したかどうか
  • 十分に休めているかどうか(feel well rested)

この表(p.122)は、ラテンアメリカ数か国と、ほかの地域のポジティブ感情指数(Positive Affect) の高い国々いくつかとを比較しています。コスタリカはパラグアイとパナマに続いて三番目です。

レポートはこの現象も、人と人とのあいだの感情的なつながりを大事にする文化に起因していると推測しています。

「世界幸福度調査」は、こういった研究結果を、単に興味深い情報として受け止めるだけでなく、公共政策立案に使ってほしいと訴えてています。

ラテンアメリカ諸国の幸福度が「基本的要素」にくらべて高いのはいいことだ。しかし、「基本的要素」に問題があるということも無視すべきではない。ラテンアメリカ諸国の経済力は、先進国と比べるとまだまだおとっているし、所得の格差も非常に高い。汚職も大きな問題だ。多くの国は厳しい治安問題をかかえている。ラテンアメリカの経済がより豊かになり、不平等や腐敗の問題が解決され、治安が改善されれば幸福度はより高くなるだろう。公共政策を検討するうえで、こういった問題に対応するだけでなく、この地域の高い幸福度に寄与している要素をより強化する措置も考えるべきだ。そして、ほかの地域もラテンアメリカのポジティブな点から学ぶべきだ、と。

日本における過労死や孤独死、若者の自殺の問題などを思うと、これは適切な提案ではないでしょうか。

(2020年1月17日)

Note: The map and all graphs and tables have been reproduced from Helliwell, J., Layard, R., & Sachs, J. (2018). World Happiness Report 2018, New York: Sustainable Development Solutions Network, with the exception of the global ranking table, which has been taken from the 2019 report.

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