
民主主義への評価は、0から100のスケールではかると、4月の平均が76だったところが、8月には65、11月には63に下がりました。でも調査を行った研究者たちは、国の危機的な状況、そして政府への支持が劇的に下がっていることをかんがえると、民主主義への支持は高くたもたれていると考えてよい、という見解をしめしています。
ご無沙汰しています。去年の8月以来、大学でオンライン講座を教えはじめたため、ブログのほうがおろそかになってしまいました。また徐々に、コスタリカから興味深い人物や情報を紹介していこうと思います。今回はこの国のコロナ禍の近況についてです。
感染者が爆発的に増える
去年の2020年6月に、コスタリカのコロナ対策が効果を上げていて、そのため政府の信頼度、そして民主主義への支持率が劇的に上昇したことをお話しました。でも同じ記事のなかで、5月ごろに感染者数が加速的に増えはじめたことにも触れました。残念なことに、それ以来コロナの件数は爆発的に増えていきます。6月末時点で、感染者の総数が3559人だったのが、今年2021年1月27日には191,345人にまでのぼっていました。死者は2567人です。
基本的な原因は、政府が時期尚早に交通や経済活動への規制をゆるめてしまったこと、そしてコスタリカの人びとの「コロナ疲れ」でしょう。コロナ疲れの兆候が最初に見えはじめたのは、4月の半ばの復活祭(イースター)の時期です。復活祭は、ラテンアメリカでは大事なお祭りで、ほとんどのひとがその週は休暇をとります。平常は海岸などのリゾートに人があふれるときです。
去年は、コロナの感染を防ぐため、政府は国民に旅行を控えるよう呼びかけ、交通もかなり制限しました。それでも、イースターにはいる前の金曜日に、それ以前とくらべてスーパーマーケットが人でごった返していました。コスタリカの人びとは家族や親せきとの絆を何よりも大事にします。そろそろズームや電話だけでの会話では我慢できなくなって、自宅や海辺での集まりを計画しはじめたのでしょう。
政府は、外出やひととのコンタクトを控えるよう国民に訴える一方、5月から徐々に経済活動への規制を解除しはじめます。6月にはいり、かなり急激な感染者数の増加がはじまってもあと戻りしませんでした。まだ感染者が比較的すくないころは、接触者を追跡調査し、クラスターを封じ込めるという戦略が効果をあげていました。しかし㋆にはいって、保健大臣が、「市中感染が広がっている。感染者の追跡調査がもう追いつかなくなった。」と宣言します。追いつくために一時、規制緩和と強化を交互にするという実験を試みますが、感染者数は爆発的に増え続け8月の初旬には一日に千人を超えました。

横軸が毎日の感染者数が30人に達してから(2020年6月6日)の日数
Costa Rica: Coronavirus Pandemic Country Profile (Our World in Data)
こんな状況のなか、8月には海外からの観光客の受け入れがはじまりました。最初はコロナが比較的コントロールされている国からの旅行者にかぎっていて、PCR検査が陰性であることが条件だったのですが、しばらくするとこれらの規制も解除してしまいます。企業や自営業者など、いろいろな方面からかなりプレッシャーがあったようです。それに、政府から困窮している企業や労働者に支援を続ける予算もたりません。4月から、仕事を失った人びとに対して、補助金の給付をはじめましたが、期間は三ヶ月だけで、額もとても十分とはいえません。
もうひとつ、コスタリカのコロナ禍対策の弱みとして、検査の少なさがあります。毎日の検査数が3500から4000ぐらいで、陽性率が今では35から40%にのぼっています。WHOは、パンデミックがはじまったころから、「Test, test, test!」と国々に呼びかけていました。できれば陽性率は3%から最高10%にとどめるのが望ましい、つまり陽性ひとりごとに10人から30人検査すべきだというわけです。この基準からするとコスタリカの検査数はあきらかに低すぎます。政府は一日に4500までふやすと一時いっていましたが、なかなかキャパシティーが追いつかないようです。
コスタリカはマスクの着用を義務化するのも9月にはいってからで、ほかの国々にくらべておくれました。これも感染の広がりかたに拍車をかけたかもしれません。
感染者の増加率は、8月に一日千人を超えると、そこからは横ばい状態にはいります。それでもコスタリカのような、人口500万人ちょっとの小さな国にとっては大変な数字です。政府は、去年の終わりごろから医療施設が崩壊寸前だ、と警告を発しはじめました。でも幸い、医療施設を管理する社会保障公庫が必死にコロナ治療用の設備と人員の拡大につとめた甲斐があり、いまのところ持ちこたえています。致死率も、1月28日の時点で1.3%と、日本(1.4%)とほぼ同じで、世界ではかなり低いうちにはいります。ちなみにブラジルは 2.5、スペインは2.2、メキシコは8.5%、世界の平均値は2.2%です。
人びとの態度と行動
年末が近づくと、政府はクリスマスの家族の集まり、そして大晦日のパーティーなどが感染をあおることを懸念し、自粛をよびかけました。そんな中、コスタリカ大学が世論調査を行ったところ、四人にひとりがクリスマスには自宅のバブルをやぶっても家族や友人と集まるつもりだ、と答えました。ほぼ三人にひとりがたえずコロナ感染の危険に身をさらしているといっていて、この数字は高所得層のほうがやや高くなります。6月の記事にはニカラグア人の移民労働者や、低所得層のコスタリカ人のあいだでコロナがひろがっていると書きましたが、これを見ると、もっと広く蔓延しているのかもしれません。
たしかに数か月前から、たまにサンホセやエスカスの町を歩いてみると、人ごみが多くて、レストランなどにもお客がずいぶんはいっています。
それでも1月の終わりに近づいた今でも、政府が懸念していたように感染者がよりいっそう増えるという現象は、今のところまだ起こっていません。むしろ毎日の件数はやや下降気味です。理由ははっきりしませんが、この傾向が続いてほしいものです。
明るいニュースは、コスタリカ政府が12月24日のクリスマス・イブからコロナの予防接種をはじめたことです。政府の目標は、人口の80%へのワクチン投与で、まずファイザーから300万回分のワクチンを購入する契約を結びました。12月23日の夜に9750ドースのワクチンが届き、次の日に、医療従事者、老人ホームのスタッフと入居者から接種がはじまりました。
経済と政治への影響
ほかの国々と同様に、コロナ禍はコスタリカの経済に大変な打撃を与えました。OECD の推定では、GDPは2020年中に5.6%減っています。海外から観光客が来なくなってしまったこともあって、ホテルやレストランがとくに大きな損害を受けています。もともと高かった失業率は二倍にあがり、20%を超えました。貧困率も、2019年には総世帯のほぼ20%だったのが26%まであがっています。

政府は上記の補助金のほか、付加価値税や光熱費、水道料金の支払い延期などの対策をとり、保健医療向けの予算も増やしました。でもコロナ到来以前から大きな赤字と債務をかかえていて、できることに限界があります。
コロナの広がりをおさえるためのさまざまな規制と、政府の財政赤字対策に対して反対運動もおこりました。とくに9月から10月にかけて、デモや道路の封鎖など、かなり大がかりな抗議活動がくりひろげられました。そしてコスタリカにはめずらしく、何度かデモ隊と警察が衝突し, けが人も出ます。
直接のひき金になったのは、政府が、IMFから融資をうけるために、新しい税もふくめた赤字削減対策を検討すると宣言したことです。政府は抗議活動の鎮圧につとめる一方、コスタリカ社会のさまざまな分野のリーダーや組織に呼びかけ、財政対策と経済の復興についての対話をうながしました。
政府に対する不信感がたかまっているなか、参加者の納得がいく対話の方法にたどりつくまでさまざまな議論がありました。でも結局、政府、政党、民間企業、労働組合、アカデミア、学生組織、女性の組織などから62人のリーダーたちが集まります。3週間の話し合いのすえ、58の合意項目を大統領と議会の議長に提出しました。合意された措置がすべて実行されれば、現在GDPの10%ちかくなっている財政赤字を2%ちょっと減らせると推定されています。財政を安定させるにはほど遠い数字です。それにこれらの合意項目は議会で法案のかたちになり、可決されなければなりません。与党は少数派です。はたしてどこまで実現できるか危ういところです。
合意項目のいくつかは、政府とIMFとの間の暫定協定に組み込まれました。でもこの協定も議会の賛同が必要ですし、IMFの幹部の同意も得なければなりません。
それでも、このような危機状況のなか、政府と市民との間で幅広い対話が行われ、合意に達したことは評価にあたいします。
コロナ禍とコスタリカの民主主義
国民の政府に対するまなざしは、6月に紹介した世論調査とくらべるとすっかり冷たくなっています。この世論調査は、コスタリカ大学が、四半期ごとに行っていますが、6月に紹介したデータは4月の調査からでたものです。今回は11月の調査の結果をいくつか見てみましょう。

(UCR/CIEP, Informe de Resultados del Estudio de Opinión Sociopolítica, Nov. 2020
コスタリカ大学、2020年11月世論調査)
大統領への支持率は、4月には前年11月の22%から65%まであがりましたが、今年の11月には15%まで落ちてしまいました。政府全体への支持率も4月には80%近かったのが、やはり15%まで下がっています。経済対策に関しては、4月には71%が評価していたのが、11月には43%に落ちました。保健医療政策は4月の91%からは下がっていますが、71%がいまだに好意的にみています。
また、民主主義への評価は、0から100のスケールではかると、4月の平均が76だったところが、8月には65、11月には63に下がりました。でも調査を行った研究者たちは、国の危機的な状況、そして政府への支持が劇的に下がっていることをかんがえると、民主主義への支持は高くたもたれていると考えてよい、という見解をしめしています。
「コスタリカの民主主義は大丈夫かもしれない」と思わせてくれたエピソードがあります。ニカラグア人の移民労働者が多くはたらく農場や工場でクラスターが発生したことで、彼らに対して、以前にも増して差別的な言動が見られるようになりました。そんな中、㋆中に開かれたコロナ状況についての記者会見で、ある記者が社会保障公庫の医療部長、マリオ・ルイス医師に、入院中の患者のうち何人がコスタリカ人で何人が外国人か、とたずねました。質問のうらに、「なんでコロナウイルスを持ち込んでいるニカラグア人をコスタリカ人の税金でささえている病院で治療しなくてはならないのか」という疑問がうかがえます。でもルイス医師は、「私たちは連帯と、すべての人びとに医療を提供するという原則にしたがってはたらいています。だれを入院させるかは国籍によってではなく症状によって決めます」と答えました。

(Caja Costarricense de Seguro Social/コスタリカ社会保障公庫写真)
その日からソーシャルメディアでルイス医師の、人なつこそうな丸顔の写真が、彼の言葉とともに拡散され、「彼はコスタリカの誇りだ」とたたえられました。
世界各地で、もう何年も前から権威主義と排他的なポピュリズムが台頭してきています。それにコロナ禍が追い打ちをかけているなか、ぜひコスタリカにはこの傾向に打ち勝ってほしいものです。
(2021年1月31日)
久しぶりです❗️楽しみしてます❗️
ありがとうございます!