楽園の中の貧困と不平等

前回はコスタリカの幸福度が日本や、ほかの国々とくらべて高いというお話しをしました。今回は、「コスタリカ、ハッピーな国、豊な自然に囲まれた楽園」というイメージの陰にかくれた貧困について少し述べましょう。

このブログの、「コスタリカ、過去と現在」のページでも触れましたが、この国は、ここ20年間以上のあいだ、貧困率を20パーセント以下に下げることができないでいます。2019年に統計局が行った世帯調査の結果では世帯ごとの貧困率は21パーセントで、2010年と変わっていません。このグラフが過去10年間の傾向をあらわしています。

世帯調査から見るコスタリカの貧困率の変遷

Fuente: INEC Costa Rica, Encuesta Nacional de Hogares 2019 Resultados Generales

黄色い線が全国、青が都市部、赤が農村部です。農村部の貧困率は減少傾向にあります。農村部で貧困が減っているひとつの大きな理由は、政府からの援助だと思われます。もうひとつの原因に、都市化が進むことによって農村部に住み、都市で仕事をする人が増えていることがあります。新しい雇用形態も多少は生まれているようです。

全国的な貧困率が下がらないひとつの理由は経済成長が全体的に停滞していることです。コスタリカの五つの国立大学の監修のもとに毎年発表されている、「国家の現況」(Estado de la Nación)という報告書があります。2019年の報告書は、ここ5年間、経済活動全体が縮小している、と指摘しています。

下のグラフをみると、主に外国企業が輸出製品の製造をしているフリーゾーンでの活動(グレーの線)は伸びていますが、国内市場向けの活動(青い線)は減少傾向にあります(黒い線が合計)。そして、この傾向が雇用の創出もさまたげています。

コスタリカの経済活動の変遷
Fuente : Informe Estado de la Nación 2019

統計局が三ヶ月ごとに雇用調査を行っています。2019年10月の調査によると、失業率は11.4パーセントです。下のグラフをみると、前年の同じ時期とほぼ同じぐらいで、ここ数年のあいだ上昇傾向にあることがわかります。

コスタリカの失業率の変遷
Fuente: INEC-Costa Rica, Encuesta Continua de Empleo (ECE), 2019, Resultados Generales

「国家の現況」レポートは、いちばん失業に苦しんでいるのは女性、若者、そして教育レベルの低い人びとだと指摘しています。「コスタリカ、過去と現在」に、コスタリカの現在の経済政策が中学校以上の教育を受けることができなかった人びとをおきざりにしていると書きました。しかもこれはかなり大勢の人たちなのです。2018年の時点で、15歳と16歳の人口の48%しか学校にかよっていませんでした。

それにこの国の教育の質にもまだまだ大きな問題があります。OECD(日本も加盟している経済協力機構)の学習到達度調査では、コスタリカはいつもOECD加盟国の平均成績を下回ります。

貧困のもうひとつの原因は富の集中です。コスタリカは、ジニ係数で計算した所得格差の一番大きい10ヶ国のうちにはいります。2019年の世帯調査によると、ジニ係数は2017年から5.14という高い数値でとまったままです。

この国の経済をより平等な方向に建てなおし、教育の普及度と質を向上させ、貧困と不平等を減らすのは困難で、時間のかかる仕事です。コスタリカの人びとが、彼らのハッピーな人生観と連帯感にささえられて、このむずかしい道のりをめげずに踏破してくれることを願います。

(2020年2月1日)

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